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東京高等裁判所 昭和58年(行コ)49号 判決

新潟県上越市仲町三丁目二番一三号

控訴人

有限会社栄不動産

右代表者代表取締役

金子範英

右訴訟代理人弁護士

西村四郎

渡部正男

新潟県上越市西城町三丁目二番一八号

被控訴人

高田税務署長

古井俊之

右指定代理人

岩田好二

岩崎輝彌

清水利雄

右指定代理人

矢亀勲

右当事者間の法人税額等更正処分取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人の昭和四九年四月一日から昭和五〇年三月三一日までの事業年度の法人税について昭和五二年六月三〇日付でした更正及び無申告加算税賦課決定を取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者の主張

一  控訴人の請求原因

1  控訴人は、不動産売買等を業とする会社であるが、その昭和四九年四月一日から昭和五〇年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、昭和五〇年八月三〇日、所得金額を欠損一五五八万四七五二円、還付税額を二二万七七四二円として期限後確定申告をしたところ、被控訴人は、昭和五二年六月三〇日、所得金額を七七三二万六七一七円、税額を二九九八万二六〇〇円とする更正(以下「本件更正」という。)及び無申告加算税額を三〇二万一〇〇〇円とする無申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をした。これに対し、控訴人は、異議申立及び審査請求をしたが、いずれも棄却された。

2  しかし、本件更正及び本件賦課決定は、後記のとおり、所得の帰属年度を誤り、かつ、所得金額を過大に認定した点において違法であるから、その取消を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認めるが、2の主張は争う。

三  被控訴人の主張(課税根拠)

1  本件事業年度における控訴人の所得金額は、申告に係る欠損金額一五五八万四七五二円に次の(三)の一億二五六四万五六三九円を加算した一億一〇〇六万〇八八七円となるべきものであり、所得金額を右の範囲内において認定した本件更正に違法はない。

(一) 土地売上収益計上漏れ 二億四六一三万五一七五円

(二) 土地売上原価 一億二〇四八万九五三六円

(三) 右差額((一)-(二)) 一億二五六四万五六三九円

2  右加算の根拠は次のとおりである。

(一) 土地売上収益計上漏れについて

(1) 控訴人は、昭和四八年一二月二七日、訴外株式会社大産(以下「大産」という。)との間において、控訴人所有の別紙第一物件目録記載の土地六九筆(面積合計一七万三二九八・五六平方メートル。以下「当初契約土地」という。)を代金五億二四二二万八一四四円(一平方メートル当たり三〇二五円)で大産に売り渡し、昭和四九年三月三一日までに代金支払と同時に所有権移転登記をする旨の売買契約(以下「当初契約」という。)を締結し、大産から手付金一億五〇〇〇万円を受領した。そして、控訴人は大産に対し、昭和四九年四月八日から同月一〇日間までの間に、当初契約土地のうち別紙第二物件目録記載の土地二九筆(別紙第一物件目録の番号(一)ないし(二九)の土地。面積合計八万一三六七平方メートル。以下「本件土地」という。)につき、当初契約の履行として、別紙第二物件目録の「所有権移転登記日」欄記載のとおり所有権移転登記をし、他方、大産は控訴人に対し、当初契約の代金として、同年四月六日に五〇〇〇万円、同年五月一六日に三〇〇〇万円、同年七月三日に三〇〇万円、合計八三〇〇万円を支払つた。

(2) 本件土地は控訴人の棚卸資産であり、その販売による収益の計上時期は、当該資産の引渡があつた日の属する事業年度であると解されるところ、本件土地については、右のとおり、当初契約の履行として、昭和四九年四月八日から同月一〇日までの間に大産に所有権移転登記が経由され、大産が同土地の支配管理を取得したことにより、大産に対する引渡が行われたものということができるから、同土地の売上収益は、控訴人の本件事業年度の益金に算入すべきものである。

(3) しかるところ、当初契約の売買代金の単価は前記のとおり一平方メートル当たり三〇二五円と定められているから、これに本件土地の面積八万一三六七平方メートルを乗じた二億四六一三万五一七五円が収益に計上すべき売上金額となる。

(二) 土地売上原価について

(1) 本件土地の売上収益に対応する売上原価は、次のとおり合計一億二〇四八万九五三六円である。

ア 土地取得原価 五二六三万三八六八円

イ 売買諸費(固有費用) 三五一四万九三五五円

ウ 売買諸費(共通費用) 一六六万六二三七円

エ 一般管理費(共通費用) 五〇四万七八六三円

オ 支払利息(共通費用) 二三七七万三三二六円

カ 前期諸費用(共通費用) 二二一万八八八七円

(2) 右各金額の算定根拠は次のとおりである。

ア 土地取得原価

控訴人の本件土地の取得価額は別紙第二物件目録の「取得原価」欄記載のとおり合計五二六三万三八六八円である。

イ 売買諸費(固有諸費)

控訴人は、当初契約土地全部の売買諸費として七〇一〇万二四二五円を要したので、このうち本件土地に係る費用を算出するため、右数額に本件土地配分率五〇・一四パーセントを乗じた三五一四万九三五五円を本件土地の売買諸費(固有費用)とする。

右の本件土地配分率は次の計算により求めた。すなわち、当初契約土地の中で本件事業年度内に大産に引き渡されたのは本件土地だけであるから、当初契約土地全部について生じた売買諸費のうちで本件土地に係るものを按分する方法として仕入価額の比率を求めると、当初契約土地全部の仕入価額は一億〇四九六万二七三一円で、うち本件土地の仕入価額は右アで認定したとおり五二六三万三八六八円であり、後者の前者に対する比率は五〇・一四パーセントとなるので、右比率をもつて本件土地配分率としたものである。

なお、本件更正の際には、控訴人の作成した乙第五号証に大産関係の売買諸費として記載されている右七〇一〇万二四二五円全額を本件土地の売買諸費(固有費用)として認容したが、これは、控訴人の調査非協力等により、右の金額が本件土地のみの費用であるか否かが不明であつたためであり、その後の調査により右金額は当初契約土地全部についてのもので、かつ、これを一筆ごとに振り分けることができないことが判明したので、右のように主張を変更するものである。

ウ 売買諸費(共通費用)

控訴人の営業取引に係る各物件の共通費用としての売買諸費は総額一五一六万〇四五〇円であり、これに大産関係土地配分率二一・九二パーセント及び右イの本件土地配分率五〇・一四パーセントを累乗した一六六万六二三七円を本件土地の売買諸費(共通費用)とした。

右の大産関係土地配分率は次の計算により求めた。すなわち、控訴人は、不動産売買業者として大産関係の当初契約土地以外にも一般譲渡物件を保有しており、これら全物件の仕入価額は、期首保有に係るものが一億一〇一七万一二七六円、期中仕入に係るものが三億六八五九万六九六〇円、合計四億七八七六万八二三六円であり、うち当初契約土地の仕入価額は一億〇四九六万二七三一円である。そこで、控訴人の営業取引に係る各物件の共通費用としての売買諸費を当初契約土地全部に按分する方法として、右の全物件仕入価額に対する当初契約土地仕入価額の比率を求めると、二一・九二パーセントとなるので、右比率をもつて大産関係土地配分率としたものである。

エ 一般管理費(共通費用)

控訴人の営業取引に係る各物件の共通費用としての一般管理費は総額四五九二万八五四六円であり、これに大産関係土地配分率二一・九二パーセント及び本件土地配分率五〇・一四パーセントを累乗した五〇四万七八六三円を本件土地の一般管理費(共通費用)とした。

オ 支払利息(共通費用)

控訴人の営業取引に係る各物件の共通費用としての支払利息は総額二億一六三〇万四二六二円であり、これに大産関係土地配分率二一・九二パーセント及び本件土地配分率五〇・一四パーセントを累乗した二三七七万三三二六円を本件土地の支払利息(共通費用)とした。

カ 前期諸費用(共通費用)

別紙第一物件目録の番号(一三)の土地は、昭和四八年三月中に控訴人が取得したものであり、同年三月期末において未発売物件として保有していたものであるから、同年三月期中の同土地に係る諸費用として二二一万八八八七円を認容する。

その算定根拠は次のとおりである。すなわち、控訴人の作成した昭和四八年三月期末現在の未発売物件諸費用に関するメモ(乙第一六〇号証)によれば、同年三月期末の未発売物件に按分すべき同期中の共通費用として、売買諸費二〇一七万四七八一円、一般管理費六六二一万五七二一円、支払利息一億八四二〇万五五八六円、合計二億七〇五九万六〇八八円が計上されている(そのほかに計上されている工事代、期首諸費用及び雑損失は右(一三)の土地に関係がない。)ところ、同年三月期の期首保有物件及び期中仕入物件の仕入価額の合計は四億一三一三万八六七二円であり、これに対する右(一三)の土地の仕入価額三四一万四〇〇〇円の比率は〇・八二パーセントであるから、右の按分すべき共通費用合計二億七〇五九万六〇八八円に右比率を乗じて(一三)の土地に係る費用を求めると二二一万八八八七円となる。

3  本件賦課決定は、控訴人が本件事業年度の法人税確定申告の法定申告期限である昭和五〇年五月三一日を徒過し、同年八月三〇日に申告したので、国税通則法六六条一項二号の規定により、本件更正に基づき納付すべき法人税額三〇二一万〇三〇〇円(本件事業年度の所得に対する法人税額に還付金額二二万七七四二円を加算したもの)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額の無申告加算税を賦課したものである。

四  被控訴人の主張に対する控訴人の認否

1  被控訴人の主張1は争う。

2(一)  被控訴人の主張2(一)の(1)のうち、大産に対する本件土地の所有権移転登記が当初契約の履行としてなされたことは否認し、その余の事実は認める。(2)のうち、本件土地が控訴人の棚卸資産であり、同土地につき昭和四九年四月八日から同月一〇日までの間に大産に対する所有権移転登記がなされたことは認めるが、その余は争う。(3)のうち、本件土地の面積及び売買代金の単価は認めるが、その余は争う。

(二)  被控訴人の主張2(二)の(1)は争う。(2)のうち、ア及びイは争い、ウは、共通費用としての売買諸費の総額及び大産関係土地配分率を認め、その余は争い、エは、共通費用としての一般管理費の総額及び大産関係土地配分率を認め、その余は争い、オは、共通費用としての支払利息の総額及び大産関係土地配分率を認め、その余は争い、カは、別紙第一物件目録の番号(一三)の土地が昭和四八年三月期の期末以前に取得されたものであることを認め、その余は争う。

3  被控訴人の主張3は争う。

五  控訴人の反論(違法事由の主張)

1  売上収益の帰属年度の誤り

本件土地の売上収益は、次に述べるとおり、昭和五一年度の益金に計上すべきものであり、本件更正がこれを本件事業年度の益金に算入したのは、帰属年度を誤つている。

(一) 当初契約土地六九筆は、現地においては一筆ごとの境界は全く不明であり、その測量も行われておらず、地形的には高低差があつて、右土地を個々に切り離して売買することなどは考えられず、また、道路等の関係から、これを飛び飛びに使用収益する余地もなかつた。このため、当初契約では、本件土地を含む六九筆を一括して不可分的に売買の目的とし、代金も、各土地ごとの取得価額によることなく、一律に一平方メートル当たり三〇二五の単価により売買することとしたのである。ところが、大産は、控訴人に対し、手付金一億五〇〇〇万円のほか、昭和四九年七月までに八三〇〇万円を支払つたのみで残代金の支払をせず、当初契約のままでは契約が履行できない状態になつたので、控訴人と大産は、当初契約土地六九筆のうち別紙第一物件目録の番号(六一)ないし(六九)の土地九筆(面積合計四万〇〇一二平方メートル。以下「除外土地」という。)を売買の目的から除外し、これを返品扱とした上、昭和五二年一月二〇日、残余の同目録番号(一)ないし(六〇)の土地六〇筆(面積合計一三万三二八六・五六平方メートル。以下「最終契約土地」という。)を売買の目的とし、その代金を三億七二六五万八七七六円とする契約(以下「最終契約」という。)を締結した。

右最終契約の目的土地の中には本件土地も含まれているが、右最終契約は、当初契約を撤回ないし合意解除し、本件土地を含む最終契約土地六〇筆について新たに別個の売買契約をしたものであるから、本件土地についての売買契約の成立日は昭和五二年一月二〇日とすべきであつて、その売上収益は、右契約日を含む昭和五一年度の益金に計上すべきものである。本件のような一括売買における売上収益の計上時期は、一括売買全体について統一的にとらえるべきで、これを分割計上することは許されない。

(二) もつとも、本件土地については、昭和四九年四月中に控訴人から大産に対する所有権移転登記がなされているが、同土地は当初契約土地の中に虫食状態で存在するものであり、それだけでは商品としての価値がなく、それだけを一部所有権移転登記しても契約の履行として全く意味のないものであつた。右移転登記は、大産が控訴人に対して売買代金を支払うため右土地を利用して第三者から金融を受ける必要があつたので、その便宜のための方法としてなされたものであつて、当初契約上の義務の履行としてなされたものではない。控訴人が大産に対し、本件土地につき現地で境界を指示したり、その引渡を行つたりした事実はない。

また、本件事業年度内に大産が控訴人に支払つた額は、手付金一億五〇〇〇万円と八三〇〇万円であるが、右手付金は、残代金が支払われたときに初めて代金に充当されるもので、それまでの間に契約の解除等がなされたときはこれを返還しなければならないものであり、右移転登記当時は単なる仮受金にすぎないものであつた。残り八三〇〇万円では本件土地に到底対応するものではなく、当事者双方ともこの支払と本件土地の所有権移転登記とが対応関係にあるものとは考えていなかつた。

(三) 更に、本件においては、後記3の仲介斡旋手数料等の当初契約に関する費用が本件事業年度中に未定であり、申告ができる状況ではなかつた。したがつて、売上収益についても本件事業年度の益金に算入すべきではない。

2  売上収益の過大認定

本件更正は、大産に対する本件土地の売渡単価を一平方メートル当たり三〇二五円とし、これに本件土地の面積を乗じて売上収益を二億四六一三万五一七五円と認定しているが、右認定は過大である。

(一) 前記のとおり、本件土地を含む最終契約土地一三万三二八六・五六平方メートルについて締結された最終契約では、売買代金が三億七二六五万八七七六円とされており、これによれば、売渡単価は一平方メートル当たり二七九五・九二円に減額されたことになる。これは、最終契約で売買の目的から除外された除外土地九筆が他の土地であつたからである。したがつて、本件土地の売上収益は、右減額後の売渡単価を基礎とした二億二七四九万五六二二円とすべきである。

もつとも、最終契約では、控訴人が訴外新潟県信用組合(以下「新潟信用」という。)に対して負担している借入金残債務三〇五三万三〇六八円を大産が引き受けて支払う旨定められているが、右債務引受は、新潟信用の承諾がない限り免責的債務引受になるものではなく、せいぜい重畳的債務引受にとどまるものであり、しかも、その後において現実に控訴人が右残債務を弁済しているのであるから、本件土地の売渡単価の算定にあたつては、大産の右引受債務額を代金額に含めて計算すべきではない。

(二) また、一括売買の目的であつた当初契約土地のうちから本件土地のみを一部切り離して売上収益の計上を認めるべきではないことは既に主張したとおりであるが、当初契約は、各土地間の時価評価額に較差があつたにもかかわらず、一括売買を前提としたからこそ各土地一律の売渡単価によつて契約をしたものであるから、仮に右の収益帰属に関する主張が容れられないのであれば、一括売買を前提として決められた売渡単価によつて本件土地の売上収益を算定することは許されず、同土地の個別的な時価評価額をもつて売上収益とすべきものである。

3  売上原価の過少認定

(一) 売買諸費(固有費用)について

被控訴人は、本件土地の売買諸費(固有費用)として、乙第五号証記載の大産関係売買諸費七〇一〇万二四二五円に本件土地配分率五〇・一四パーセントを乗じた三五一四万九三五五円を計上しているが、本件更正においては右七〇一〇万二四二五円全額を売買諸費(固有費用)として認容していたものであり、控訴人もこれを争つていなかつた。しかるに、被控訴人は、控訴審に至り右のように主張を変更したものであつて、右変更は自白の撤回に当たるから、異議がある。そうでないとしても、右主張の変更は、時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。

(二) 前期諸費用(共通費用)について

(1) 控訴人の土地の取得には四、五年を要するのが通常であるから、昭和四八年三月期末までに生じた諸費用の中には本件土地を取得するために要した費用も含まれているものであり、これを本件土地の前期諸費用(共通費用)として売上原価に計上すべきである。そして、甲第二七、第二九号証、乙第五、第三九号証によると、控訴人の昭和四八年三月期末現在の未発売物件全部に係る共通諸費用は八億〇〇七九万五三四一円であることが明らかであるところ、本件土地の仕入価額は五二六三万三八六八円、同年三月期末現在の未発売物件全部の仕入価額は四億一三一三万八六七二円で、前者の後者に対する比率は一二・七四パーセントであるから、右八億〇〇七九万五三四一円に右一二・七四パーセントを乗じた一億〇二〇二万一三二六円を本件土地の前期諸費用(共通費用)として計上すべきである。

(2) 仮に別紙物件目録の番号(一三)の土地についてのみ前期諸費用(共通費用)を計上するとしても、被控訴人の計算は誤つている。すなわち、甲第二八号証によれば、当初契約土地の中で昭和四八年三月期末以前に取得されたことが明らかなものとしては同目録の番号(一三)、(四二)、(四五)、(四六)、(四八)、(四九)の土地六筆があるが、当初契約土地の所在する上越市大字中門前及び同市大字中屋敷の地区内で控訴人が同年三月期末現在保有していた未発売物件の総面積及びその共通諸費用をみると、甲第二七号証によつて明らかなとおり、面積は合計八万八六五九・七一平方メートル、諸費用は合計五億二三三八万八七〇七円であり、この費用を右六筆の土地の合計面積八八八三平方メートルに応じて按分すると、五二四三万九三九八円となり、これを更に(一三)の土地の面積六四三三平方メートルに応じて按分すると、三七九七万六二〇七円となるから、右三七九七万六二〇七円を(一三)の土地の前期諸費用(共通費用)とすべきである。

また、甲第二九号証によると、右(一三)の土地の所在する上越市大字中門前の地区内で控訴人が昭和四八年三月期末現在保有していた未発売物件の総面積は二万九〇九三平方メートルであり、その共通費用は一億五〇〇五万五〇四二円である。この費用を右(一三)の土地の面積六四三三平方メートルに応じて按分すると、三三一七万九九四三円となるから、少なくとも右三三一七万九九四三円を(一三)の土地の前期諸費用(共通費用)とすべきである。

(三) 仲介斡旋手数料及び調査費について

控訴人は、昭和五二年一月二四日、訴外東栄商事に対し、当初契約の仲介斡旋手数料として一五〇〇万円を支払い、また、昭和四九年一二月二一日、訴外渡辺測量事務所に対し、当初契約土地の調査費用として一〇九万八二一〇円を支払つたが、本件更正はこれを経費として認めていない。

六  控訴人の反論に対する被控訴人の認否及び再反論

1  売上収益の帰属年度の誤りについて

(一) 控訴人の反論1(一)のうち、大産が当初契約の手付金一億五〇〇〇万円及び代金八三〇〇万円を控訴人に支払つたこと並びに控訴人と大産との間で最終契約(但し、代金額の点は除く。)が締結されたことは認めるが、その余は争う。

最終契約は、除外土地九筆が最終契約当時までに控訴人によつて既に第三者に売却され、その所有権移転登記もなされていたので、右九筆を売買の目的から除外し、これに応じて売買代金を減額するとともに、当初契約に基づく残代金の支払方法について合意したにすぎないものであり、しかも、最終契約における一平方メートル当たりの売渡単価は当初契約におけるそれと同額の三〇二五円とされているのであるから、本件土地を含む最終契約土地六〇筆についての売買契約成立の日は、当初契約の日である昭和四八年一二月二七日と認めるべきである。

もともと、大産は、具体的な開発造成計画があつて本件売買をしたのではなく、転売利益を目的としていたものであり、また、各土地の現況は山林で、売主側が実際に占有使用していたわけでもないので、現地で双方が立ち会い境界を明確にした上で引渡しを行うなどということは当初から予定されていなかつた。更に、現地の地形等からみて、当初契約土地六九筆全体を平坦に造成することは事実上無理であつたし、また、全体として造成しなければ無価値と認められるようなものでもなかつた。本件土地は、決して虫食状態で存在しているものではなく、四ブロツクに分かれてまとまつており、各ブロツクとも相当広い面積で十分価値のある物件である。これらの点からみて、当初契約が全部の土地につき不可分的に一括して履行しなければ売買の目的を達し得ないものであつたとは認められない。

(二) 控訴人の反論1(二)のうち、本件土地につき昭和四九年四月中に控訴人から大産に所有権移転登記がなされたこと及び手付金一億五〇〇〇万円と代金八三〇〇万円が大産から控訴人に支払われたことは認めるが、その余は争う。

控訴人が大産に対して本件土地の所有権移転登記をしたことにより、同土地は大産が支配管理することになつたものであり、右移転登記が大産に金融を得させる意図でなされたものであるとしても、それは単なる控訴人の履行の動機にすぎず、そのことが直ちに、右移転登記が当初契約の一部の履行としてなされたことを否定するものではない。そして、右移転登記に対応して、大産から本件土地の価額二億四六一三万五一七五円にほぼ見合う合計二億三三〇〇万円(手付金一億五〇〇〇万及び八三〇〇万円)の代金が控訴人が支払われているのであつて、右移転登記と代金支払とは無関係なものではなく、右移転登記によつて本件事業年度内に本件土地の引渡がなされたものとみるべきである。

(三) 控訴人の反論1(三)は争う。

2  売上収益の過大認定について

(一) 本件土地の売渡単価が一平方メートル当たり三〇二五円であることは、控訴人が原審で認めていたところであり、当審に至りこれを争うことは自白の撤回に当たるので、異議がある。そうでないとしても、控訴人の右認否の変更は、時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。

(二) 控訴人の反論2(一)のうち、最終契約が締結されたこと(但し、代金額を除く。)は認めるが、その余は争う。控訴人は、最終契約による売渡代金を三億七二六五万八七七六円としているが、これは、最終契約の確認書二条本文に売買代金残額として記載されている一億三九六五万八七七六円に既払の手付金一億五〇〇〇万円及び中間金八三〇〇万円を加えた額である。しかし、最終契約においては、右のほか、控訴人が新潟信用に対して負担している借入金残債務三〇五三万三〇六八円を大産が引き受けて支払うものと定められていたから、この引受債務額を含めると、代金額は四億〇三一九万一八四四円となり、これを基礎とした最終契約土地の売渡単価は当初契約と同じく一平方メートル当たり三〇二五円となる。したがつて、控訴人主張のような売上収益の過大認定はない。また、売上収益は、本件事業年度末において確定しているところ又は適正に見積もつたところにより算定すべきもので、その後に行われた最終契約によりその金額に変動を生じたとしても、それはその変動の生じた事業年度において会計処理すべきものであるから、控訴人の主張はこの点からも理由がない。

(三) 控訴人の反論2(二)の主張は争う。本件土地は一筆ごとに売買されたものではなく、本件土地を含む当初契約土地の売渡単価が当初契約により一平方メートル当たり三〇二五円と定められ、そのうち本件土地が本件事業年度内に大産に引き渡されたものであつて、その際に売買代金を時価とする旨契約を変更しているわけではないから、本件土地につき時価評価をして売上収益を算定すべきであるとの控訴人の主張は失当である。

3  売上原価の過少計上について

(一) 控訴人の反論3(一)記載のとおり、本件土地の売買諸費(固有費用)について被控訴人が主張を変更したことは認めるが、右は自白の撤回に当たらず、仮に自白の撤回に当たるとしても、従前の主張は真実に反し、かつ、錯誤によるものであるから、右撤回は許されるべきである。

(二) 控訴人の反論3(二)は争う。

(三) 控訴人の反論3(三)の事実は否認する。仮に控訴人主張の仲介斡旋手数料が支払われたとしても、本件事業年度終了の日までにその債務が確定していたものではないから、これを同年度の損金に算入することはできない。

第三証拠関係については、本件記録中の証拠目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、また、控訴人が大産との間において、昭和四八年一二月二七日、控訴人所有の棚卸資産である当初契約土地六九筆(面積合計一七万三二九八・五六平方メートル)を代金五億二四二二万八一四四円(一平方メートル当たり三〇二五円)で大産に売り渡し、昭和四九年三月三一日までに代金の支払と同時に所有権移転登記をする旨の売買契約(当初契約)を締結し、大産から手付金一億五〇〇〇万円を受領したこと、控訴人が大産に対し、昭和四九年四月八日から同月一〇日までの間に当初契約土地のうち本件土地二九筆(面積合計八万一三六七平方メートル)につき所有権移転登記をしたこと、大産が控訴人に対し、当初契約の代金として、同年四月六日に五〇〇〇万円、同年五月一六日に三〇〇〇万円、同年七月三日に三〇〇万円、合計八三〇〇万円を支払つたこと、昭和五二年一月二〇日、控訴人と大産が当初契約土地六九筆から除外土地九筆(面積合計四万〇〇一二平方メートル)を除いた最終契約土地六〇筆(面積合計一三万三二八六・五六平方メートル)について最終契約(但し、代金額を除く。)を締結したことも、当事者間に争いがない。

二  本件土地の売上収益の帰属年度について

1  右当事者間に争いのない事実に、成立に争いのない甲第六、第七号証、第一一ないし第一七号証、第三一、第三二号証、乙第七ないし第三五号証、第四〇号証の一、二、第四二ないし第一五〇号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第一ないし第三号証、第一五一ないし第一五四号証、原審における証人小島義信の証言(第一、二回)により成立の認められる甲第八号証、第二〇号証の一ないし三、当審における証人宮本昌逸の証言により原本の存在及び成立の認められる甲第二一号証、同証言により成立の認められる甲第二二号証、乙第三八号証、当審における証人小島義信の証言により成立の認められる甲第二三ないし第二五号証、第三四号証、方式及び趣旨により公務員が職務上作成した公文書と認められるから成立を推定すべき乙第三六、第三七号証、第四一号証、原審及び当審における証人小島義信(原審は第一、二回)、右証人宮本昌逸の各証言並びに原審における控訴人代表者金子範英の尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  当初契約土地は、上越市所有の山林を取り囲む形で存在する広い山林であるが、場所によつて高低差があり、右土地全部を統一的に平坦化して利用することは難しく、大産としては、これを自ら開発造成してもよいし、あるいはそのまま他に転売してもよいとの考えで控訴人から買い受けたものであつた。

(二)  大産は、当初契約の時に手付金一億五〇〇〇万円を控訴人に支払つたものの、残代金を履行期である昭和四九年三月三一日を経過しても支払わなかつたので、資金ぐりの都合から代金入手を急いでいた控訴人が大産に対し、当初契約土地の一部につき先履行として大産に所有権移転登記をしてもよいから早く代金を支払つてもらいたい旨申し入れた結果、同年四月六日、残代金の内金五〇〇〇万円が支払われるとともに、当初契約土地のうちで既払の手付金及び右五〇〇〇万円の合計二億円にほぼ見合う程度の土地について控訴人から大産に対し当初契約に基づく所有権移転登記手続を行い、大産がこれを利用して資金を調達し残代金を支払うとの合意をした。そこで、控訴人は、右所有権移転登記手続を履行するため、当初契約土地のうちでまだ第三者の担保権が設定されていなかつた土地の中から本件土地二九筆を選び出し、これについて同年四月八日から一〇日までの間に昭和四八年一二月二七日付売買を原因として大産に対する所有権移転登記をした。

(三)  本件土地を含む周辺一帯は、現況が山林であるため、一筆ごとの境界が現地で必ずしも明確ではなく、また、当初契約及び右移転登記の際に土地の測量や双方立会の下での境界の確定ないし指示等が行われたわけではないが、本件土地の範囲を現地でおおよそ特定することはでき、その境界について従前から特に争いがあつたというものではなかつた。また、本件土地は、当初契約土地の中に虫食状態で点在しているものではなく、全体が大きく四つないし五つのブロツクに分かれてそれぞれ一団の土地を形成しており、各ブロツクが最小のところで約八〇〇〇平方メートル、最大のところで約五万平方メートルのまとまつた面積を有している。

(四)  大産は、昭和四九年五月一六日に三〇〇〇万円、同年七月三日に三〇〇万円を控訴人に支払つたが、その後の支払をせず、他方、控訴人としても、既に大産に移転登記をした本件土地以外の当初契約土地のうち南西部分に位置する一団の土地九筆(除外土地)について第三者が大産よりもこれを高く買い取る話が進んでいたので、大産の内諾を得た上、同年一二月五日に右除外土地を控訴人の会計処理上返品扱として売買の目的から除外し、同月一九日以降右除外土地を第三者に売却した。

(五)  この間の昭和四九年八月中旬ころ、控訴人と実質的な組織構成を同じくする訴外株式会社新栄不動産が設立され、控訴人と大産との間の当初契約に関する権利義務一切が控訴人から同訴外会社に承継された。

(以下においては、便宜のため右訴外会社を含めて「控訴人」の表示を用いることとする。)

(六)  大産は、控訴人から所有権移転登記を受けた本件土地について、昭和四九年九月上越市に対し土地取得の日を右移転登記の日とする特別土地保有税の申告書を提出し、また、昭和五〇年二月六日訴外香和興業株式会社に対し所有権移転請求権仮登記を、同年九月三〇日訴外新井信用金庫に対し根抵当権設定登記を、昭和五一年一月二八日訴外猪又建設株式会社に対し根抵当権設定登記をそれぞれ経由した。

(七)  大産からはその後も残代金の支払がなされなかつたが、当時のいわゆる石油シヨツクの情況下において控訴人が今更当初契約を解除しても新たな買主を探すことが困難であつたところから、控訴人は、既に第三者に売却ずみの除外土地を除いた残りの土地六〇筆について大産との間の売買の履行を求めるため、昭和五二年一月二〇日、大産との間において、〈1〉売買の目的物を当初契約の定めにかかわらず右六〇筆の土地(最終契約土地)とすること、〈2〉売買代金残額は一億三九六五万八七七六円とするが、控訴人が新潟信用に対して負担している借入金残債務三〇五万三〇六八円(最終契約土地の一部に設定されている根抵当権の被担保債権)について、右売買代金残額とは別に大産がこれを引き受けて支払うものとすること、〈3〉大産は、右の売買代金残額及びこれに対する昭和四九年四月一日以降年一二・五パーセントの割合による利息を支払うものとし、昭和五二年九月三〇日に二〇〇〇万円、昭和五三年四月三〇日に残金及び利息をいずれも大産振出の約束手形によつて支払うこと等を合意し(最終契約)、その旨を記載した確認書と題する書面を取り交わした。なお、右確認書の前文には「控訴人と大産は昭和四八年一二月二七日付両者間の当初契約の履行等につき次のとおり合意した」と記載されている。右合意に基づき、控訴人は、昭和五二年一月二一日大産に対し、本件土地を除く最終契約土地につき同月一二日付売買を原因とする所有権移転登記をしたが、大産からは残代金のうち二〇〇〇万円が支払われたのみであり、また、新潟信用からの前記借入金残債務についても、結局控訴人がこれを返済した。

以上の各事実を認めることができ、前掲証人小島義信(原審第一回)、同宮本昌逸及び控訴人代表者金子範英(原審)の各供述中本件土地が虫食状態で存在するものであるかのようにいう部分は採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  右事実によれば、当初契約は、当初契約土地六九筆を一括して売買の目的とし、その売渡単価を一律に一平方メートル当たり三〇二五円と定めたものであるが、そのことから直ちに、右契約が履行上においても一体不可分でなければならず、当初契約土地の一部について分割履行を認める余地のないものであるとすることはできない(控訴人自身が当初契約土地のうちから除外土地九筆を切り離して第三者に売却したことは前認定のとおりである。)。右に認定したように、本件土地は、二億円にほぼ見合う程度の土地として選び出されたものであり、全体が大きく四ないし五ブロツクに区分されてそれぞれ一団をなし、各ブロツクともかなりのまとまつた面積があり、かつ、第三者の担保権の目的とはなつていない土地であつて、その開発造成を行うにはできるだけまとめて工事をするのが便利であつたとしても、なお本件土地だけでも相当の商品価値を有するものであることは、大産が本件土地を後日担保として利用していることからも容易に推認されるところである。このような土地を当初契約土地全体から切り離して一部先行的に移転することは、客観的にも、また当事者にとつても、決して無意味ないし無価値なものではなく、当初契約がかかる一部の移転について契約の履行としての意味を認めない趣旨のものであつたとは到底解されない。前掲証人小島義信(原審第一回)、同宮本昌逸及び控訴人代表者金子範英(当審)の各供述中右認定に反する部分は採用することができない。

しかるところ、控訴人は、大産の代金支払を促進するため、昭和四九年四月、本件土地につき大産に対して所有権移転登記をなし、これによつて大産に同土地の自由な処分を可能ならしめるとともに(右移転登記が本件土地を担保として大産に利用させるためにのみなされたものであることを認めるべき証拠はない。)、同年七月までに本件土地の売渡価額(当初契約における売渡単価に本件土地の面積を乗じた額)二億四六一三万五一七五円にほぼ対応する二億三三〇〇万円の代金の支払を受けたものである。これらの事情と、本件土地の現況が山林で何びとかがこれを現実に占有使用していたものではなかつたことなどを併せ考えれば、他に特段の事情のない本件においては、控訴人の大産に対する右所有権移転登記により、本件土地につき当初契約の一部履行としての意味を持つ引渡が行われたものと認めるのが相当であり、この認定を履すに足りる証拠はない。

してみると、控訴人の所得計算上、その棚卸資産である本件土地の売上収益は、右引渡の時を含む本件事業年度において確定したものとして、これを同年度の益金に計上すべきものである。

3  控訴人は、当初契約は最終契約により撤回ないし合意解除され、改めて昭和五二年一月二〇日に本件土地を含む最終契約土地について売買契約が締結されたのであるから、売上収益の確定は右最終契約締結の時であると主張するが、最終契約が当初契約を撤回ないし合意解除したものではなく、除外土地を除いたその余の当初契約土地について当初契約の履行の方法を定めたものであることは、前認定の最終契約締結の経緯、確認書の前文の記載及び後記三2の認定事実に照らして明らかであり、右主張は採用することができない。

4  また、控訴人は、後記仲介斡旋手数料の支払等の当初契約に関する費用が本件事業年度中に未確定であつたから、右売上収益を同年度の益金とすべきでないと主張するが、右主張の仲介斡旋手数料の支払を認めがたいことは後記四5の(一)に判示するとおりであり、また、その他の売上原価が同年度中に未確定であつたことを具体的に認めうる証拠はない。

以上により、本件更正が本件土地の売上収益を本件事業年度の益金に計上したことは何ら誤りではない。

三  売上収益の額について

1  当初契約で定められた売渡単価は一平方メートル当たり三〇二五円であり、本件土地の面積は八万一三六七平方メートルであるから、これを乗じた二億四六一三万五一七五円をもつて本件土地の売上収益とするのが相当である。

2  控訴人は、最終契約で定められた売買代金三億七二六五万八七七六円(前記確認書記載の売買代金残額一億三九六五万八七七六円と既払代金の二億三三〇〇万円との合計額)を最終契約土地の面積一三万三二八六・五六平方メートルで除した二七九五・九二円を一平方メートル当たりの売渡単価として本件土地の売上収益を算出すべきであると主張するが(なお、控訴人の右主張は、自白の撤回に当たるものではなく、また、これによつて訴訟の完結を遅延させるものとも認められない。)、右確認書においては、控訴人の新潟信用に対する借入残債務三〇五三万三〇六八円を大産が引き受けて支払うものと定められており、この定めが残代金額を一億三九六五万八七七六円と定めた確認書二条本文に対する但書として置かれている点からみても、右の支払引受額は実質的な代金の一部を構成するものと認めるべく、これを右三億七二六五万八七七六円に加算して最終契約土地の売渡単価を求めると、当初契約におけると同じく一平方メートル当たり三〇二五円となることが明らかである。もつとも、右新潟信用に対する借入残債務については、結局控訴人が返済をしているが、本件全証拠によつても、右支払引受の約定が控訴人と大産との間で拘束力のないものであつたとは認められないし、控訴人の右返済により右支払引受の約定の効力が法律上無に帰するわけでもないから、右事実は売渡単価に関する右の認定を左右するものではない。

3  また、控訴人は、本件土地について一部の分割履行による売上収益の計上を認めるのであれば、当初契約土地全部の一括売買を前提として決められた売渡単価によるべきでなく、本件土地の個別的な時価評価額をもつて売上収益とすべきである旨主張するが、当初契約土地がそれぞれの立地条件等の違いにより時価評価額を異にするものであつたとしても、当初契約においては、代金を個別的な時価評価額によることなく一律に一平方メートル当たり三〇二五円と定めて契約しているのであり、かつ、前認定の一部履行に際しても、その対象とした本件土地の代金について、時価評価額に準拠した別段の合意がなされているわけではないから、当初契約における右約定の売渡単価によつて本件土地の売上収益を算定することは何ら不合理ではない。なお、前掲証人小島義信(当審)、同宮本昌逸及び控訴人代表者金子範英(当審)は、当初契約土地の中では除外土地九筆の時価評価額が他よりも高かつたと供述しているが、右2で認定したとおり、除外土地を除いた最終契約土地についても当初契約と同額の売渡単価が維持されていることからすると、当初契約土地に除外土地が含まれていたことが当初契約における売渡単価を引き上げる要素となつていたものとは認めがたく、その他、時価評価額における本件土地の平均単価が除外土地を含むその余の当初契約土地の平均単価より特に低廉であつたと認めるに足りる証拠はない。

四  売上原価について

1  土地取得原価

成立に争いのない乙第四号証、原審における証人野田誠夫及び同川合信一の各証言によれば、本件土地の取得原価は別紙第二物件目録の「土地取得原価」欄記載のとおりであることが認められ、その合計額は五二六三万三八六八円である。

2  売買諸費(固有費用)

(一)  被控訴人は、右売買諸費(固有費用)として認容すべき額を当初は七〇一〇万二四二五円と主張し、控訴人もこれを争つていなかつたところ、当審において、被控訴人はこれを三五一四万九三五五円と減額変更したが、本件審理の経過に徴すれば、被控訴人の右当初の主張は、その当時の資料からみて右売買諸費(固有費用)の額は多くても七〇一〇万二四二五円を超えるものではないとの趣旨であるにすぎないから、被控訴人がその後の調査結果に基づきそれを下まわる数額を主張したことをもつて自白の撤回に当たるとみる余地はない。また、右主張の変更により本件訴訟の完結が遅延するものとは認められない。したがつて、被控訴人の右主張の変更が許されないとする控訴人の主張は採用することができない。

(二)  そこで、右費用の額について判断するに、成立に争いのない乙第五号証及び前掲証人小島義信(当審)の証言によれば、当初契約土地について生じた売買諸費用は総額七〇一〇万二四二五円であるが、これを一筆ごとに振り分けることはできないことが認められるから、当初契約土地の仕入価額の中で本件土地の仕入価額の占める割合(本件土地配分率)に応じて、右売買諸費用総額を本件土地に按分することは不合理ではないというべきところ、前掲乙第四、第五号証、前掲証人野田誠夫及び同川合信一の各証言によると、当初契約土地の仕入価額は一億〇四九六万二七三一円であることが認められ、また、本件土地の仕入価額が五二六三万三八六八円であることは右1認定のとおりであり、前者により後者を除した本件土地配分率は五〇・一四パーセントとなるから、これを右の売買諸費用総額に乗じると、本件土地に係る売買諸費(固有費用)は三五一四万九三五五円となる。

3  売買諸費、一般管理費及び支払利息(いずれも共通費用)控訴人の営業取引に係る各物件の共通費用としての売買諸費、一般管理費及び支払利息の各総額並びに右各物件の仕入価額と当初契約土地の仕入価額の比率である大産関係土地配分率が被控訴人主張のとおり二一・九二パーセントであることについては、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、これらの各費用を各物件ごとに振り分けることはできないことが認められるから、右各費用総額に右大産関係土地配分率及び右2(二)の本件土地配分率を累乗して本件土地に按分される右各費用の額を算出すると、売買諸費(共通費用)は一六六万六二三七円、一般管理費(共通費用)は五〇四万七八六三円、支払利息(共通費用)は二三七七万三三二六円となる。

4  前期諸費用(共通費用)

前掲乙第一九号証、前掲証人小島義信(当審)の証言により原本の存在及び成立の認められる甲第二八号証、右証言及び弁論の全趣旨によれば、本件土地のうち別紙第一物件目録の番号(一三)の土地は、控訴人が昭和四八年三月中に取得し、同年三月期末当時に未発売物件として保有していたものであることが認められるので、同土地に係る同年三月期中の諸費用はこれを売上原価に含めるべきものである。控訴人は、本件土地取得までに四、五年を要しているから、同年三月期の諸費用の中に本件土地取得のために支出された費用も含まれているものであり、本件土地全部につき前期諸費用を認めるべきであると主張するが、同年三月期までに右(一三)の土地以外の本件土地を取得するために費用が支出されたことを具体的に確認するに足りる証拠はないから、右主張は採用できない。

ところで、成立に争いのない乙第一六〇号証によれば、控訴人が昭和四八年三月期末現在において同期末の未発売物件に係る共通諸費用として計上しているものは、〈1〉工事代九三三九万五七四七円、〈2〉売買諸費二〇一七万四七八一円、〈3〉期首諸費用四億六五六三万〇六九五円、〈4〉一般管理費六六二一万五七二一円、〈5〉支払利息一億八四二〇万五五八六円、〈6〉雑損失二四六八万七三一八円であることが認められるが、右のうち〈1〉については、当該工事が(一三)の土地のために行われたものであることを認めるべき証拠がなく、〈3〉については(一三)の土地の前記取得時期からみて昭和四七年三月期からの繰越に係る期首諸費用は無関係であり、また、〈6〉については、雑損失は期末未発売物件に按分すべき性質のものではないから、いずれも(一三)の土地に係る共通費用とはならないものであり、残余の〈2〉〈4〉〈5〉の費用のみを昭和四八年三月期の共通費用として(一三)の土地に按分すべきである。そして、弁論の全趣旨によると、右各費用を同年三月期末の未発売物件に一筆ごとに振り分けることはできないことが認められるので、前述したところと同様の手法により、仕入価額を基礎として(一三)の土地に対する配分率を求め、これを適用して同土地に係る同年三月期の共通諸費用を算出することは合理性を欠くものではないというべきところ、前掲乙第一六〇号証によれば、控訴人が昭和四八年三月期末現在で保有する未発売物件の仕入価額は同期期首在庫に係るものが二二八三万七六〇八円、期中仕入に係るものが三億九〇三〇万一〇六四円、合計四億一三一三万八六七二円であることが認められ、また、(一三)の土地の仕入価額が三四一万四〇〇〇円であることは前認定のとおりであるから、後者の前者に対する比率は〇・八二パーセントとなり、これを右〈2〉〈4〉〈5〉の費用合計額二億七〇五九万六〇八八円に乗じると二二一万八八八七円となる。したがつて、(一三)の土地に係る前期諸費用(共通費用)は二二一万八八八七円であり、これを売上原価に計上すべきである。

控訴人は、右(一三)の土地に対する配分率を計算する基礎となる昭和四八年三月期末現在の未発売物件に係る共通諸費用額を甲第二七、第二九号証、乙第五、第三九号証によつて認定すべきであると主張するが、それらに記載されている右共通費用には昭和四七年三月期以前のものも含まれている可能性が窺われるなどその数値の正確性に疑義があるから、これをそのまま採用することはできない。その他右の認定判断に反する控訴人の主張はいずれも採用しない。

5  仲介斡旋手数料及び調査費用

(一)  控訴人は、訴外東栄商事に対し、昭和五二年一月二四日当初契約の仲介斡旋手数料として一五〇〇万円を支払つたと主張するが、本件全証拠によつても右東栄商事が当初契約についていかなる仲介斡旋を行つたかが明らかでないのみならず、前掲乙第四一号証、成立に争いのない乙第三九号証、前掲証人小島義信(原審第二回)の証言により成立の認められる甲第一八号証の一ないし五及び同証言(但し、後記措信しない部分を除く。)によると、右東栄商事は、控訴人代表者の兄弟で控訴人の取締役でもある金子福三郎の個人営業であつて、金融業等を営んでいるものであるところ、控訴人は、昭和四八年三月期末現在で右東栄商事から三億一〇〇〇万円を借り入れており、右仲介斡旋手数料の支払と主張する昭和五二年一月二四日の一五〇〇万円は、控訴人の帳簿上では右借入に対する支払利息として記載されていること、当初契約の締結について主として仲介斡旋の労をとつた訴外老川憲行に対しては控訴人は仲介斡旋手数料を支払つていないことが認められ、これらの事実に照らすときは、右主張に係る一五〇〇万円は東栄商事からの右借入金に対する利息として支払われたものと推認すべきものであり、右認定に反する前掲証人小島義信(原審第二回)の供述は措信することができず、他に右認定を覆して控訴人の前記主張を認めるに足りる証拠はない。

(二)  次に、控訴人は、訴外渡辺測量事務所に対し、昭和四九年一二月二一日当初契約土地の調査費用として一〇九万八二一〇円を支払つたと主張するが、前掲証人小島義信(原審第二回)の証言により成立の認められる甲第一九号証の一ないし三、同証言により原本の存在及び成立の認められる乙第一五七号証、方式及び趣旨により公務員が職務上作成した公文書と認められるから成立を推定すべき乙第一五八号証によれば、控訴人は、渡辺測量事務所(土地家屋調査士渡辺和雄)に対して、除外土地九筆につきその境界を明らかにした上でこれを分筆することを依頼し、その調査費用として昭和四九年一二月二一日右一〇九万八二一〇円を支払つたものであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。したがつて、右支払は本件土地のためになされたものではなく、これを本件土地の売上原価とすることはできない。

6  右1ないし5に判示したところによると、本件土地の売上原価の総額は一億二〇四八万九五三六円となる。

五  以上により、本件事業年度の益金とすべき本件土地の売上計上漏れ二億四六一三万五一七五円から同土地の売上原価一億二〇四八万九五三六円を控除した売上所得額は一億二五六四万五六三九円であり、これを控訴人の申告に係る欠損所得金額一五五八万四七五二円に加算すると、控訴人の本件事業年度の所得金額は一億一〇〇六万〇八八七円となるので、所得金額を右の範囲内である七七三二万六七一七円と認定した本件更正には控訴人主張の違法はないというべきである。

また、控訴人が本件事業年度の法人税確定申告を法定の申告期限内にしなかつたことは当事者間に争いがなく、本件賦課決定における無申告加算税額の算定に誤りがあるとは認められないので、右賦課決定も適法である。

六  よつて、本件更正及び本件賦課決定の取消を求める控訴人の本件請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判所裁判官 村岡二郎 裁判官 佐藤繁 裁判官 宇見隆男)

第一物件目録

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第二物件目録

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